大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

2025年 年頭挨拶

新年あけましておめでとうございます。

2024年中も皆様のお陰を持ちまして順調に成長を続けることができました。これもひとえに、日頃より当社をご愛顧くださっているお客様、パートナーのみなさま、素晴らしいサービスを提供してくれているAWSの皆さま、そして成長を支えてくれている社員と、そのご家族・パートナーの皆さまのお陰と深く感謝致しております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

順調に成長できている大きな理由の1つに「採用が順調に進捗している」ことが挙げられます。当社は出社もリモートワークのどちらも強制しない、いわゆる「ハイブリッド」に近い勤務形態ですが、リモートワークをはじめた2012年から一貫して

  • リモートワークは福利厚生などではない。あくまで仕事の生産性を高める一手段であること
  • リモートワークか出社かは原則として自分で選択できるが、それは「成果が発揮できること」「顧客視点に立った判断であること」が必要

と繰り返し伝えてきました。リモートワークに幻想を持たず、物理的に話したり会ったりすることも大切にする。一方でリモートワークによって「みんなが同じ時間に同じ場所に集まる」ことによる非効率の回避もきちんと狙っていくというスタンスです。

こうした考え方に賛同してくださるエンジニアは多く、今期も予定通りのエンジニア採用が実現できる見込みです。

下手に迎合して「当社はフルリモートです」という謳い文句で採用すれば、そのポリシーが変更になったときに大きな失望を生みますし、逆に「コミュニケーションのために絶対出社です」とすると「本当にITの会社ですか?」と組織のIQを疑われることになってしまいかねません。

2024年中は「出社回帰」の流れがあったようですが、当社の採用にとっては間違いなくこうした流れがプラスに働きました。
昨今の状況下でも当社のエンジニア採用がうまくいっているのは、こうした「当社のスタンスを、良いところも悪いところも含めて事前に全て伝えて、その上で共感してくれた方に参画してもらう」という姿勢によるものと自負しております(こちらの採用サイトにも詳しく載せています)。

私たちがクラウドにコミットしている理由は、それが「ITインフラにおける時間と場所の制約を解き放つから」というものでしたが、生成AIはこれに加えて「頭数の制約」も解放してくれる可能性を秘めています。

「出社かリモートか」の様な不毛な論争は早めに終結させて、もっと多くの企業の方々にクラウド×生成AIのパワーを届けることで、皆さまがより制約の少ない環境で大きな成果を達成できるよう、引き続きご支援を続けて参りたいと思います。

2025年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

Waymoでウェイウェイしてきた話

こんにちは、大石です。

アドベントカレンダー2024もいよいよトリということで、今年一番の衝撃体験だった自動運転タクシー Waymo に乗ってきたお話しをみなさんと共有したいと思います!

Waymoって何?

Googleのグループ企業であるWaymo社が提供している自動運転タクシー。2023年8月からサンフランシスコで、2024年からはロサンゼルスなどで実際に商用サービスを提供しています。

そもそもなんでWaymoに乗ったの?

元々の目的はAWSがラスベガスで行っているカンファレンス re:Invent に行くためだったのですが、日本からラスベガスは直行便がないのでサンフランシスコなどに寄ることになります。これに合わせて、現地にお住まいの方(米DOCOMO Innovationの秋永CEO)にお願いして実際に乗ってきました。秋永さん、ありがとうございます!

アプリはUberまんま

WaymoとUberと協力関係にあるとのことで、モバイルアプリの使い勝手や地図などはUberとほぼ同じでした。

料金について秋永さんに聞いたところ、Uberと同じダイナミック・プライシングのため一概には言えないものの、両者でそれほど変わらないとのこと。一部では「Waymoの方が割高」といった声もあるそうですが、Uberの場合一般的にドライバーさんにチップを払うところWaymoにはチップがないということもあり、そこまでの差はない様です。

キターー!

来ましたWaymo!金曜日の20時頃という時間帯でしたが、呼んでからは10分弱。

2024年10月の新聞報道ではサンフランシスコ市内を走っているWaymoは約300台とのこと。それなりの数を走っているのでそこまで待たずに乗車。アプリで「解錠」すると乗り込めます。

ちなみに運転席には乗れません!車内に内向きカメラがついていて運転席に座ると移動を促されるとのこと。シートベルトも必須で、そもそもベルトをしないと発進してくれません。安全ですね。

いきなり行き止まりなんですけど・・

最初動き出した方向がいきなり行き止まりだったんですが、駐車場の空きスペースを使って切り返してから一般道に。えっ・・?なにこれすごいんですけど・・・

一般道に出てからはスムーズそのもの。事前の予想では「自動運転カーというくらいだから安全に寄せているんだろう」という思い込みがあったのですが、思った以上に「人間らしい」運転。車線変更の時はウインカーを出して少し車体を寄せて、後続車に「本当に入るぞ」とアピールをして思ったよりも強引に車線を変更していました。

別な場所では赤信号で完全に停止している最中に後ろからクラクションを鳴らされたことがあったんですが、その時はわずかに前進して「少し前に出てくれ」という後ろの車からのメッセージを正確に理解していたようでした。人間かな?

交差点・・・早い!!

Waymoが「人間の運転と一番違う」と感じたのが交差点でのスピード。一般的に人間は交差点に進入すると進行方向を注視したり、巻き込みを恐れたりして減速するのでゆっくりになりますが、自動運転カーでは四方八方にカメラやセンサー(LiDAR)が付けられていて常に状況を把握できているので、安全だと判断すればスィっといってしまいあまり減速もしないイメージ。最初は違和感がありましたが、慣れてしまうと「むしろ安全かも・・」と感じるレベルでした。

鳩にプレッシャー

秋永さんのお話しでは、Waymoが公道を走りはじめたばかりのころは、鳩が前にいるだけで動かなくなってしまうということがあったとのこと。ところが学習を続けるうちに、少しプレッシャーをかけて鳩をどかすということを覚えたらしく、それにより鳥が前を塞いでいてもスムーズに運転できるようになったそうです。こういうことも学習するんですね〜

原則として交通規制を守ることを重視しているけど、他の車がスピード制限を超えて全体が流れているときは「自分だけが遅いとかえって危ない」と判断して多少スピード制限を超えて走行することもあるとのこと。この辺りの判断も人間っぽい動きになっているようです。

安全だった・・・

20分くらいのライドでしたが、怖い・危ないと感じたことは一度もありませんでした!むしろ人間と異なりセンサーが死角を排除しているので途中からは「安全」とすら感じました。米国でもまだ一部の都市圏に限定した試験期間中とのことですが、実際にこうした報道からも分かる通り、統計的にも人間のドライバーより事故も少ないそうです。

しかもWaymoは自動運転技術のライセンス提供も行っており、2025年には日本交通、GOと共同で東京都内でテスト走行を開始すると発表されました。これは東京でも乗れる日がくることが楽しみです!

感想

秋永さんのお話では「Waymoの前身は2009年設立で、かれこれ15年にも渡って本気で自動運転に取り組んできている。技術として生成AI世代のテクノロジーは使われておりそれがブレイクスルーを産んでいるが、決してAIを使って何かやろうという順番ではない」とのこと。

確かに生成AIなどの技術を目の前にした私たちは、どうしても「これを使って何かやろう」と考えてしまいがちですが、Waymoはそうではないということですね。
目的と手段が逆転することのないよう、Waymoに乗ってウェイウェイするだけでなく(言いたかっただけ)冷静に技術との向き合い方を考えるよい機会になりました。

最後に

当社ではre:Inventにお出かけのお客様とご一緒に、このようなツアーを組んでおります。「来年こそre:Inventに!」という方はぜひ予算を確保して頂きまして、来年のre:Inventにご一緒しましょう!

 

どうぞよいお年を!

新年のご挨拶(と反省)

新年あけましておめでとうございます。

こちらのブログもすっかり「年頭挨拶だけ更新する」という悪習が定着してしまい各方面から「社長ブログはどうなっているのか」というお叱りを頂戴しております。
特に2023年はコロナの影響もだいぶ軽減され会食の席も増えたことから、久方ぶりにお目にかかる方も増えたのですが、そうした方々から「社長ブログを更新してくれていれば大石さんの近況が分かるのに、(コロナで疎遠になっていたこともあり)ブログがないと本当に近況が分からない」というお声をいただいたことがだいぶ心に響きました。

どうしても社長ブログには「それなりのいいことを書こう」と思って準備する一方で筆(キーボード)が遠のいてしまいがちですが、近況を書き残しておくだけでも情報としてお役に立てることがあるなら吝かではありませんので、2024年は定期的に近況のご報告をするようにして参りたいと思います。

事業のご報告は上場以降「決算説明会」の方に場を譲っておりますが、皆様のお陰を持ちまして順調に進捗しております。これもひとえに、日頃より当社をご愛顧くださっているお客様、パートナーのみなさま、素晴らしいサービスを提供してくれているAWS、Googleの皆さま、そして成長を支えてくれている社員と、そのご家族・パートナーの皆さまのお陰と深く感謝致しております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

2023年は生成AI元年とも言える年でしたが、当社もご多分に漏れず全グループ社員が利用できるように制度をつくり、いくつかのパイロットプロジェクトを走らせるだけでなく、実際のお客様が安全に生成AIを利用できるような環境づくりのプロジェクトにも参画させていただきました。私も実際に手を動かして試しておりますが、率直に言うと「意外と難しい」という感想です。ChatGPTが出たての「何でもできそうだ」という万能感は一段落し、どのエンジンをどのように使い、かつ企業固有のデータをどのようにRAGで読み込ませるのかという組み合わせの問題が予想より複雑で一筋縄ではいきませんでした。

社内では「当社はこれからCIerからAIerになっていく」という話をしていますが、まさにAIもインテグレーターが必要な複雑系の世界に突入していきそうです。こうした状況でも、クラウドを用いてお客様の課題に真正面から取り組み「クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく」というビジョン目指して社員一同力を合わせて参ります。

今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2023年 年頭挨拶

新年あけましておめでとうございます。

昨年も引き続き新型コロナウイルス感染症に世界中の人々が苦しめられるだけでなく、ロシアによるウクライナ侵攻、急激な円安と経済、安全保障、健康と多くのテーマを一度に考えなくてはならない一年になりました。

こうした中、当社としては、昨年初めての企業買収を経験し、これまで当社になかった能力を買収で獲得するというチャレンジに踏み切りました。今後もこうした活動を通じてより成長スピードを加速させて行きたいと考えております。

また昨年は大幅な円安に振れたことから「お客様にとって海外クラウドが割高に感じられるのでは無いか?成長の阻害要因になるのではないか?」という懸念の声もありましたが、昨年から用意していたカスタマーサクセス部(ご契約済みのお客様に対してアフターフォローを専門に行うチーム)がAWS利用料の多いお客様にコスト削減コンサルティングサービスを提供するなど、タイムリーなサービス提供によってむしろご利用が増え、また「こうしたサービスがあるから当社と契約する」という新しいお客様もお迎えすることができるという好循環を築くことができました。

厳しい環境下においても順調に事業を進めることができたのも、日頃より当社をご愛顧くださっているお客様、パートナーのみなさま、素晴らしいサービスを提供してくれているAWSの皆さま、そして成長を支えてくれている社員と、そのご家族・パートナーの皆さまのお陰と深く感謝致しております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

 

2022年にはAWSの年次カンファレンス re:Invent も通常通りのフォーマットで開催され、私も3年ぶりにラスベガスに行って参りました。米国では殆どの人がマスクなしで通常の生活に戻していることに驚く一方、街中は3年前と異なりホームレスの人が目に見えて増え、ダウンタウンでもオフィスの空きが目立ち加熱した経済を急激に冷やしている状況であることが実感できる、(良くも悪くも)米国のダイナミズムを肌で感じる出張となりました。

かく言う私も昨年9月にはコロナに罹患してしまいまして、39度台の発熱で1週間寝込むという悪夢を経験しましたので「いますぐノーマスクに戻そう」などというつもりは毛頭無いのですが、実際に米国で(日本人を含めて)ほぼ全員がノーマスクの環境で打ち合わせや飲み会をやったりすると「やはりマスクなしでの会話は表情を含めたたくさんの情報が伝わって良いな」と再確認する機会にもなりました。

当社も出社率は10%程度という状況が続いていますが、これから何年かかけてハイブリッドワークの体制を作っていく前提に立つと「社員に強制することなく、社員自身が会社に来たくなる、face-to-faceのコミュニケーションを取りたくなるような機会をどう作っていくのか」が大きなテーマになるものと理解しています。
こうしたチャレンジについても、私たちの挑戦を皆さまにお伝えして行きたいと考えています。

皆さまにおかれましても健康にはご留意いただくとともに、よい一年になるようお祈り申し上げております。

今年も一年、どうぞよろしくお願いいたします!

2022年 年頭挨拶

新年あけましておめでとうございます。

昨年は、2020年に引き続き新型コロナウイルス感染症に世界中の人々が苦しめられる一年となりましたが、一方で新型ワクチンの登場など「技術が人々の生活を大きく変える可能性を秘めている」ことが明らかになった一年ともいえます。

当社の事業はお陰様をもちまして、2020年に慎重だったIT投資が一気に復調し、堅調に推移することができました。これも、日頃より当社をご愛顧くださっているお客様、パートナーのみなさま、素晴らしいサービスを提供してくれているAWSの皆さま、そして成長を支えてくれている社員と、そのご家族・パートナーの皆さまのお陰と深く感謝致しております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

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2022年も、これまで同様に「DX」がIT業界における大きなテーマになることは間違いありません。お客様との物理的な接触が今後も限られる中で、お客様とどう繋がっていくのか、また満足度をどうやって高めていくのかは容易な事ではありませんが、みなさまがこうしたチャレンジに当たって何か参考になることがあればと思いまして、↑の動画では米国ユナイテッド航空社のAWSを用いたDX事例についてご紹介させて頂きました。

昨年は新卒・中途を含め50名を超える採用を進めて参りましたが、まだまだ皆さまからの「クラウドを使ったDX推進をサポートしてほしい」というご要望に完全には応えられる体制には至っていないと猛省しております。今年は、採用+社内でのトレーニングを通じて、皆さまのリクエストに100%お応えできるよう体制の強化を進めて参ります。

 

皆さまにおかれましてもご健康にはご留意いただくとともに、よい一年になるようお祈り申し上げております。

今年も一年、どうぞよろしくお願いいたします!

2021年10月版 クラウド業界アップデート 〜ガバメントクラウドにAWSとGoogle Cloudが採択!〜

こんにちは、大石です。

今月も忙しいビジネスパーソンの皆さまに向けて、先月(2021年10月)のクラウド関連ニュースをさくっとキャッチアップできるようにまとめてお届けしたいと思います。様々なニュースから今後の展開を読み解くヒントとして、IT戦略の一助にご活用下さい!

 

動画でご覧になりたい方はこちら

info.serverworks.co.jp

 

2021年10月のクラウド関連トップニュース 〜ガバメントクラウドAWSGoogle Cloudが採択

  • 報道などでも大きく取り上げられましたが、AWSGoogle Cloudがデジタル庁   のクラウド基盤として採択されました(なおこれは21年度の話で、22年度以降は他のクラウドを採択する可能性もあるとのこと)。
  • これは「ガバメントクラウド先行事業」と呼ばれているもので、2025年までに地方自治体のシステムをクラウド化することを睨み、先行8自治体の基幹システムをクラウドに移行するというもの。
  •  調達に際しては先行してISMAPに登録されていることなどが求められているものの、実際に仕様をみた限りは非常に網羅的に「標準的なパブリッククラウドに求められる要件」が並べられており、特に恣意的なものを感じることはありませんでした。一方でコンピューティングリソースからセキュリティ、サポート体制、アプリケーション統合のための基盤まで幅広く求められていることから「相当な規模感でサービスを提供している事業者でなければこの要求を満たすことは難しい」のも事実です。
  • なお、デジタル庁のこの発表に対して、2ch創設者のひろゆき氏などが「なぜ国産クラウドを使わないのか」という意見を表明し議論になりましたが、国産クラウドの代表格であるさくらインターネットの田中社長がこの問題に対する見解をインタビューで答え(田中社長の回答が正鵠を射ていたこともあり)一旦は収束したようです。田中社長の見解は非常に参考になりますので、ぜひこちらの記事をご覧になることをお奨めします。

注目AWSトピックス

  1. Amazon RDS Custom for Oracle を発表
    これまでAWS上でOracle DBを動かそうとすると、EC2にOracle DBをインストールするかOracle RDSを使うかの二択でしたが、前者では仮想サーバーのお守りが必要になってしまい、後者ではOracle DBのエコシステムを支える各種パッケージソフトなど(例えば監査ログの取得や特殊な暗号化ソリューションなど)が利用できないというジレンマがありました。
    Amazon RDS Custom for Oracleを用いると、基本的な運用はRDSのマネージドサービスを利用しつつ、特殊なソフトウェアをインストールする場合には直接インスタンスにアクセスできるため、Oracle DBのエコシステムをクラウド環境でも展開することが可能になります。
  2. Amazonが決算を発表。AWSは39%増
    Amazon全体はコスト増もあり株価は軟調ですが、AWSは絶好調で売上はなんと前年同期比39%増。第3四半期の売上は、円安傾向も手伝って、日本円で約1兆8千億円に上るとのこと。
    すごいですね(白目

その他クラウド関連ニュース

  1. Google Cloudもオンプレミスで。Google Distributed Cloud発表
    この「クラウド全盛時になぜオンプレが必要なのか?」という向きもあるかと思いますが、私が認識している限りでは
    証券業務のような超低レイテンシが求められる業務領域
    災害拠点病院のようにインフラが途絶した状態でも稼働が求められる領域
    ③モバイル通信サービス事業者内にコロケーションして通信サービスとバンドルする用途
    といった領域で、クラウドサービス事業者が提供するオンプレミス型のサービス需要が増している様です。特に3の領域は既にNetflixなどが通信事業者と組んで実現しており「Netflix見放題プラン」などが提供されていますが、今後もゲームの領域で「当社の通信サービスだとレイテンシが早くてゲームが有利」だったり「当社の通信サービス経由だとチケット争奪戦に勝ちやすい」など、サービス提供者が積極的にモバイル通信サービス事業者のコロケーションサービスを使うことで差別化を図るなどの可能性もあり、今後の拡大が見込まれます。
  2. Microsoft AzureがCO2排出量確認ツールを提供
    MicrosoftMicrosoft Emissions Impact Dashboardという名称で、二酸化炭素の排出量を把握、追跡できるツールを提供開始しました。このツールを用いればオンプレミスで動作しているシステムをAzureに移行した際に削減できるCO2排出量の見積もりも取得することができ、今後市場再編でプライム市場へ移行する企業はTCFD提言に沿った形で「どのようにCO2削減に関与しているか」を開示する義務が発生する見込みですが、こうした活動を支えるものになりそうです。
    AWS, Google Cloudからも同様のツールが提供されることが強く望まれます。

まとめ

  • クラウドがついに政府の本丸に
    今回の決定は2021年度限りのもので、事業者選定を含めた本格的な展開は来年度以降になるものと思われますが、それでも公共システムの基盤にクラウドが採択されたことには大きなインパクトがありそうです。
  • 来るべきTCFD時代に備えて、IT部門もCO2排出量削減の計画と見える化
    COP26も閉会し気温上昇を1.5度に抑えることが各国義務になった今、企業もTCFD提言等を通じて、この枠組みに沿った企業活動を行っていることを表明する義務が発生します。個別に小規模なシステムを運用するのではなく、AWSやAzureの様に大規模に再生可能エネルギーを用いて、効率性と環境配慮を両立しているサービスを利用することが、環境保護の観点からも必要とされそうです。

 

 

2021年9月版 クラウド業界アップデート 〜DXはPaidyに学ぼう!3000億円買収の意味〜

こんにちは、大石です。

今月も忙しいビジネスパーソンの皆さまに向けて、先月(2021年9月)のクラウド関連ニュースをさくっとキャッチアップできるようにまとめてお届けしたいと思います。様々なニュースから今後の展開を読み解くヒントとして、IT戦略の一助にご活用下さい!

 

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info.serverworks.co.jp


2021年9月のクラウド関連トップニュース 〜DXはPaidyに学ぼう!3000億円買収の意味〜

  • 後払いサービスを提供する国内のベンチャー企業Paidyが、約3,000億円でPayPalに買収されました。国内フィンテック企業の巨額買収は、その金額も驚きをもって迎えられましたが、「なぜPayPalが?」「後払いってそんなにニーズがあるの?」というところでもクエスチョンがついた方が多かったのでは無いかと思います。
  • PayPalの戦略としては、アンダーバンクト層と呼ばれる若年者、クレジットカードを持てない層を一気に取り込む目論見だと思われます。国内でも47.5%の大学生が奨学金を借りていたり仕送りの金額も減少を続ける中、クレジットカードがあまりにリボ払いをプッシュするせいで「後払い」の受け皿になっておらず、むしろ逆に忌避されはじめているようです(私の知り合いの学校では、授業で「リボ払いはしないように」と指導されたと聞きました)。こうした事情もあり、国内だけでなく全世界的にBNPL(Buy Now, Pay Later)市場は伸びており、最大手のスウェーデンKlarna社の時価総額は3兆円超えと言われています。
  • Paidyは、こうしたBNPLに特化したfintechベンチャーとしてよく知られていました。Paidyはそうした「クレジットカードを[持てない|持たない]層」に対して、非常に使いやすいアプリと、Appleをはじめとする有力なECサイトとの連携によって「安心できる後払い」ソリューションを提供することで成長を続けてきました。買収時点でのPaidyのユーザー数は600万人超と見込まれています。
  • Fintechというとどうしても「tech」に目が行ってしまい「技術の会社」という認識を持ってしまいますが、Paidyは「実際に与信を行い、新しい市場に対して金融サービスを提供していた」ことが評価されたのではないかと思います。
    Amazonも創業当初から大量の本の在庫を抱えていましたが、「e-businessは在庫を持たないことが利点なのにAmazonは分かっていない」と投資家に批判され続けていました。ですが、Amazonは「在庫を持っていた方が顧客により早く、安く商品を届けることができる」という信念(customer obsession)の下で在庫し続けました。どちらが正しかったのかは結果が示すとおりですが、AmazonもPaidyも、高い技術を持ちつつも、リスク(Amazonは在庫、Paidyは与信)を取ることで「顧客によいサービスを提供する」ことにきちんと焦点が当たっていたことが成功に繋がったのだと思います。
  • これはDXを考える上でも非常に重要な視点だと考えられます。つまり「技術は大切だが、最も重要なことは顧客によりよいサービスを提供すること」で、「技術はサービスを実現するために用いる」「技術によって顧客体験が劇的に改善される」ことがDXの本質だと考えられます。どうしても私たちの様にITに携わっているとこの順番が逆転しがちですが、私も自戒を込めてPaidyの事例をトップニュースとしてご紹介させていただきました。

注目AWSトピックス

  • Amazon三菱商事から太陽光発電による電力を購入
    Amazonは、2040年までにカーボンニュートラルを実現すると表明しており、その取り組みの一環として(使途は明示されていないものの、ほぼ確実に)AWSのデータセンター向けに、最大で23MW分h分の再生可能エネルギーの調達を進めるというものです。
    既にAWSから「オンプレからAWSに移行することでどの程度CO2削減に貢献できるのか」というデータが出ていますが、今後企業の間でもSDGs推進の為に「再生可能エネルギーを用いているクラウド事業者から調達する」ことが選定条件として拡がるものと考えられます。

その他クラウド関連ニュース

  1. ISMAPの認定が更新。kintoneやBoxが政府でも利用可能に!
    ISMAPとは、政府が求めるセキュリティ要求を満たしているクラウドサービスを予め評価・登録することにより、政府におけるクラウドサービスの円滑な導入を目的とした制度です(実際に登録されたサービスの一覧はこちらから確認できます)。
    
デジタル庁で代表されるように政府・公共機関でもクラウドの導入が始まっていますが、個別の省庁、地方自治体がサービスの評価(特にセキュリティ)を行うことは非合理的なので一括でやってしまおう、という取り組みです。2021年3月に初版が出て以降アップデートが定期的になされており、今年の9月にはBoxやKintoneなども登録されました。今後企業でもこうしたリストを参考にする動きが拡がる可能性がありますので、クラウドサービスの調達に関わる方にとっては要チェックです
  2. Oracle JDKが無償提供へ
    2018年にOracle JDKが有償化され大きな混乱が起きましたが、結果としてOpenJDK、AWSが提供するAmazon Correttoといった無償のJDKが拡がるきっかけともなりました。経緯とねらいについてはPublickeyさんの解説が詳しくかつ的確なので、一度ご覧になることをお奨めします。
いずれにしても、一度有償化されたものを「もう一度無償化します」と言われても「はいそうですか」と信じる方は少ないと思われますので、「エンタープライズアプリケーション=Java」の世界に水を差してしまったことに変わりはなさそうです。

先月のサーバーワークス関連ニュース

  1. 2021年9月のAWS障害(Direct Connect障害)に関する説明会を実施
    2021年9月2日にAWS東京リージョンで発生した障害について、事象の報告会・勉強会を開催しました。それだけ今回の障害がみなさまに与える影響が大きかったということと、AWSを使う上でDirect Connectが一般的になっていることを示したものと考えられます。当社では、今後もこうしたトラブルの回避法やベストプラクティスなどを資料としてご提供の予定です。
  2. アプリケーション開発サービスを開始
    実は当社、昔からASPの開発や提供をやっており、かつCloudAutomatorというSaaSも全て自社で開発していますので、アプリケーション開発のチームも能力もずっと維持していたのですが、AWSのインフラ周辺のサポートの需要が急激に高まったことから、対外的にアプリケーション開発サービスを提供することはお休みしておりました。
ですが、昨今AWSをインフラにしてサーバレス開発をやっていきたい、Amazon Connectを使って音声アプリケーションを構築したいというニーズが高まったことを受けて、改めてアプリケーション開発もサービスとしてご提供を再開することにしたものです

まとめ

  • DXの本質は「顧客体験の劇的な向上」
     DXを「ユーザーや社員などのステークホルダーの体験を、デジタルを使って劇的に良くすること」と考えると、Paidyは「アプリの使い勝手に加え、支払いの体験そのものも劇的に改善」したファイナンス業界のDX事例とみてよいと思います。「当社もDXだ!」という号令がかかっている方も多いと思いますが、ぜひこうした事例をご参考にされることをお奨めします
  • クラウドサービスの調達に変化が。クラウドの利用は技術に留まらずSDGs
    AWS再生可能エネルギーの調達を大規模に始めることで、いよいよIT業界にもカーボンオフセットの波が押し寄せそうです。こうした対応をとっていないクラウド事業者やデータセンター事業者は今後の調達で不利になることが予想され、ITサービスの選定に「持続可能な取り組み」という項目が入ってくることも遠くなさそうです