大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

2021年9月版 クラウド業界アップデート 〜DXはPaidyに学ぼう!3000億円買収の意味〜

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こんにちは、大石です。

今月も忙しいビジネスパーソンの皆さまに向けて、先月(2021年9月)のクラウド関連ニュースをさくっとキャッチアップできるようにまとめてお届けしたいと思います。様々なニュースから今後の展開を読み解くヒントとして、IT戦略の一助にご活用下さい!

 

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2021年9月のクラウド関連トップニュース 〜DXはPaidyに学ぼう!3000億円買収の意味〜

  • 後払いサービスを提供する国内のベンチャー企業Paidyが、約3,000億円でPayPalに買収されました。国内フィンテック企業の巨額買収は、その金額も驚きをもって迎えられましたが、「なぜPayPalが?」「後払いってそんなにニーズがあるの?」というところでもクエスチョンがついた方が多かったのでは無いかと思います。
  • PayPalの戦略としては、アンダーバンクト層と呼ばれる若年者、クレジットカードを持てない層を一気に取り込む目論見だと思われます。国内でも47.5%の大学生が奨学金を借りていたり仕送りの金額も減少を続ける中、クレジットカードがあまりにリボ払いをプッシュするせいで「後払い」の受け皿になっておらず、むしろ逆に忌避されはじめているようです(私の知り合いの学校では、授業で「リボ払いはしないように」と指導されたと聞きました)。こうした事情もあり、国内だけでなく全世界的にBNPL(Buy Now, Pay Later)市場は伸びており、最大手のスウェーデンKlarna社の時価総額は3兆円超えと言われています。
  • Paidyは、こうしたBNPLに特化したfintechベンチャーとしてよく知られていました。Paidyはそうした「クレジットカードを[持てない|持たない]層」に対して、非常に使いやすいアプリと、Appleをはじめとする有力なECサイトとの連携によって「安心できる後払い」ソリューションを提供することで成長を続けてきました。買収時点でのPaidyのユーザー数は600万人超と見込まれています。
  • Fintechというとどうしても「tech」に目が行ってしまい「技術の会社」という認識を持ってしまいますが、Paidyは「実際に与信を行い、新しい市場に対して金融サービスを提供していた」ことが評価されたのではないかと思います。
    Amazonも創業当初から大量の本の在庫を抱えていましたが、「e-businessは在庫を持たないことが利点なのにAmazonは分かっていない」と投資家に批判され続けていました。ですが、Amazonは「在庫を持っていた方が顧客により早く、安く商品を届けることができる」という信念(customer obsession)の下で在庫し続けました。どちらが正しかったのかは結果が示すとおりですが、AmazonもPaidyも、高い技術を持ちつつも、リスク(Amazonは在庫、Paidyは与信)を取ることで「顧客によいサービスを提供する」ことにきちんと焦点が当たっていたことが成功に繋がったのだと思います。
  • これはDXを考える上でも非常に重要な視点だと考えられます。つまり「技術は大切だが、最も重要なことは顧客によりよいサービスを提供すること」で、「技術はサービスを実現するために用いる」「技術によって顧客体験が劇的に改善される」ことがDXの本質だと考えられます。どうしても私たちの様にITに携わっているとこの順番が逆転しがちですが、私も自戒を込めてPaidyの事例をトップニュースとしてご紹介させていただきました。

注目AWSトピックス

  • Amazon三菱商事から太陽光発電による電力を購入
    Amazonは、2040年までにカーボンニュートラルを実現すると表明しており、その取り組みの一環として(使途は明示されていないものの、ほぼ確実に)AWSのデータセンター向けに、最大で23MW分h分の再生可能エネルギーの調達を進めるというものです。
    既にAWSから「オンプレからAWSに移行することでどの程度CO2削減に貢献できるのか」というデータが出ていますが、今後企業の間でもSDGs推進の為に「再生可能エネルギーを用いているクラウド事業者から調達する」ことが選定条件として拡がるものと考えられます。

その他クラウド関連ニュース

  1. ISMAPの認定が更新。kintoneやBoxが政府でも利用可能に!
    ISMAPとは、政府が求めるセキュリティ要求を満たしているクラウドサービスを予め評価・登録することにより、政府におけるクラウドサービスの円滑な導入を目的とした制度です(実際に登録されたサービスの一覧はこちらから確認できます)。
    
デジタル庁で代表されるように政府・公共機関でもクラウドの導入が始まっていますが、個別の省庁、地方自治体がサービスの評価(特にセキュリティ)を行うことは非合理的なので一括でやってしまおう、という取り組みです。2021年3月に初版が出て以降アップデートが定期的になされており、今年の9月にはBoxやKintoneなども登録されました。今後企業でもこうしたリストを参考にする動きが拡がる可能性がありますので、クラウドサービスの調達に関わる方にとっては要チェックです
  2. Oracle JDKが無償提供へ
    2018年にOracle JDKが有償化され大きな混乱が起きましたが、結果としてOpenJDK、AWSが提供するAmazon Correttoといった無償のJDKが拡がるきっかけともなりました。経緯とねらいについてはPublickeyさんの解説が詳しくかつ的確なので、一度ご覧になることをお奨めします。
いずれにしても、一度有償化されたものを「もう一度無償化します」と言われても「はいそうですか」と信じる方は少ないと思われますので、「エンタープライズアプリケーション=Java」の世界に水を差してしまったことに変わりはなさそうです。

先月のサーバーワークス関連ニュース

  1. 2021年9月のAWS障害(Direct Connect障害)に関する説明会を実施
    2021年9月2日にAWS東京リージョンで発生した障害について、事象の報告会・勉強会を開催しました。それだけ今回の障害がみなさまに与える影響が大きかったということと、AWSを使う上でDirect Connectが一般的になっていることを示したものと考えられます。当社では、今後もこうしたトラブルの回避法やベストプラクティスなどを資料としてご提供の予定です。
  2. アプリケーション開発サービスを開始
    実は当社、昔からASPの開発や提供をやっており、かつCloudAutomatorというSaaSも全て自社で開発していますので、アプリケーション開発のチームも能力もずっと維持していたのですが、AWSのインフラ周辺のサポートの需要が急激に高まったことから、対外的にアプリケーション開発サービスを提供することはお休みしておりました。
ですが、昨今AWSをインフラにしてサーバレス開発をやっていきたい、Amazon Connectを使って音声アプリケーションを構築したいというニーズが高まったことを受けて、改めてアプリケーション開発もサービスとしてご提供を再開することにしたものです

まとめ

  • DXの本質は「顧客体験の劇的な向上」
     DXを「ユーザーや社員などのステークホルダーの体験を、デジタルを使って劇的に良くすること」と考えると、Paidyは「アプリの使い勝手に加え、支払いの体験そのものも劇的に改善」したファイナンス業界のDX事例とみてよいと思います。「当社もDXだ!」という号令がかかっている方も多いと思いますが、ぜひこうした事例をご参考にされることをお奨めします
  • クラウドサービスの調達に変化が。クラウドの利用は技術に留まらずSDGs
    AWS再生可能エネルギーの調達を大規模に始めることで、いよいよIT業界にもカーボンオフセットの波が押し寄せそうです。こうした対応をとっていないクラウド事業者やデータセンター事業者は今後の調達で不利になることが予想され、ITサービスの選定に「持続可能な取り組み」という項目が入ってくることも遠くなさそうです