大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

楽天球団社長の講演を拝聴しました

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こんにちは、大石です。

先日、某所で楽天球団島田社長の講演を拝聴する機会があったのですが、その内容に驚いたのでみなさんにも是非知って頂きたいと思い、書けそうな範囲で綴ってみることにしました。

スポーツビジネスの経営者から話が聞けると知ったとき、私はてっきり野球の未来とか、楽天イーグルスの選手の話とかそうした当たり障りのない話だと思っていました。

ところが島田社長の話は、どんなビジネスでも共通する極めて本質をついたお話しだったことに加え、その思考の深掘り度合いが半端なものでないことを知り、やはり成功を収めたビジネスマンというのは違うなぁと思った次第。

興味深い話が沢山あったのですが、要点は以下の3つ。

楽天球団の成功のために行ったこと:

1.長期的な視点で球団の目指すべきところを「地元に愛される球団」と規定したこと

2.そのために「短期間で強くなる」ことを悪と定義したこと

3.顧客を定義し、ターゲットと関係を構築する方法を愚直に追求したこと

1で球団のあるべき姿を示し、その例として「吉本新喜劇」が示されていました。

「地元で愛されるから全国で愛される。逆は成り立たない」という、当たり前のことですがとても大切な事を、内外に徹底されていました。経営者としてはつい「全国から愛された方が母数が増えるし・・」と安直に考えてしまいかねないところ、長期的に球団として成功するための本質を改めて示すことの重要性は、推して知るべしというところです。

2.では、全く予想外のアンチテーゼが示されました。

「短期間で強くなったり、スター選手に頼っていると瞬間的に観客動員は増えるが、すぐ飽きられる」。そんな現象を、オリックスイチロー選手の関係で示されていました。感覚的には分かっているつもりでも、強くなったりスター選手を獲得すれば観客が増えると思うと、つい短絡的な手段を選択してしまうのが人間というものです。もちろん完全に補強を否定はしなかったものの、「それよりも選手の成長だ」という価値観が示されていました。

会社ですと「社員の成長が一番」とか「社員教育に力を入れています」という話は良く聞くのですが、プロスポーツの世界で経営者から「選手の成長を促す」ということが聞けるとは思っていませんでした。

ですが、よく考えてみれば野球も会社も一緒ですよね。教育を「コスト」と認識する会社は、それなりの社員満足しか得られないと思いますし、「戦略的な投資」と捕らえている会社であれば、高い社員満足度と定着率が見込める、と。「選手はどこか別なチームに行ってしまうかもしれないから教育しない」というチームでは、選手から愛されず本当に別なチームに行かれてしまうという話しだと解しました。

3.は、よく考えればわかる話ですが、「野球は事業によって顧客が異なり、それぞれに満足が異なる」ということです。

やはり一番大切な顧客は「球場に来てくれるファン」。それもただのファンではなく「家族」だ、という再定義をされたとのこと。もともと野球は1試合が3時間半もかかることに加えナイターが多いので、30代以上のサラリーマンが大手顧客だったとのことですが、これでは先細りになることが見えている。長期的展望に立てば、やはり「子供のファン」を増やさなければ継続的な発展は見込めない。そのために、初年度から球場の大改造を行って、家族が一日中楽しめるようにしたり、家族で球場の芝生の上で(!)キャンプができる企画を作ったりという工夫をされているそうです。

面白かったのが、チケット販売事業。年間チケットというものがあり重要な収入源だそうなのですが、あまったチケットを買い戻して、たとえば身障者を球場に招くなどのチャリティーを行っているとのこと。チケット主にしてみれば、どうせ使わなかったチケットを社会のために使ってくれるのであれば気持ちがいいし、何より「残して勿体無い」という感情が薄れるので、リピートオーダーに繋げやすいとのこと。人の心をつかんだ、ユニークな戦略ですよね。

球団立ち上げ時のエピソードを聞くにつけ、スピード感の凄さは話を聞いているこちらが酔ってしまいそうな勢いでしたし、一つ一つの施策が単に早いだけでなく、本質を見事にえぐっていることばかりで、改めて組織のトップの重要性というものを知らしめられ、併せて自分の未熟さに猛省を促された90分でした。

ところで、楽天球団の島田社長とは、ベンチャー企業の経営者だったら誰でも知っている有名人です。リクルートでのトップ成績、インテリジェンスの上場に加えて投資家としてもウェブマネーの上場を成功させているという輝かしい経歴をお持ちの方です。特に私がリスペクトしているのは、「実業家としても、投資家としても、どちらでも成功した」という点。

実業家で優れた人はあれこれと口出ししながら自分の能力でビジネスを組み立てていけると思うのですが、投資家となると「経営者に任せる」という能力も必要になります。その両方をもたれているというのが素晴らしい!一般的に、自分の能力の高い人ほど、あれこれ口出しをするものですから。。

いろいろと勉強させられた90分でした。