大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

日本のウェブは残念なのか?

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こんにちは、大石です。

ウェブ評論家やアルファな人々の間で、梅田望夫さんの「日本のウェブは残念」というインタビュー記事が話題になっていましたので、私も便乗して私見を述べさせていただきたいと思います。

私の意見は、

「残念」には部分的に同意できるところもあるが、日本独自の事象を悪と決めつける風潮そのものに、再考の余地があるのではないか。 『アメリカはこうなのに、日本は違うので残念』 という発想自体を見直して、日本ならではの進化を肯定すべき

というものです。

梅田さんの「自分を高めるウェブ」というのが何を指しているのかはわかりませんが、日本に「自分を高めるウェブが存在しない」ということはわかる気がします。SNSでいえば日本のものは中高生のおもちゃという扱いで、その証左として自分たちでも「ゲームがタダですよ」と言ってしまっている。

それに対してLinkedIn、Twitterfacebookなどは、実際のビジネスで使われたり、選挙でも使われたりするなど、まさに「自己実現のツール」と呼べる使われ方をしているという点には同意できます。

一方、日本で成功しているウェブというとやっぱり「はてな」とかになるんでしょうが、それを梅田さんは「残念」「これがやりたかったんじゃない」と本音を話されている通りですし、どちらかというとYahoo!などのような一方通行のメディアが強いという印象は私だけのものでは無いと思います。

モバイルはというと、「当社は高い収益を誇っています」なんていうから何をやっているのかと聞くと「占い」とかいう答えだったりします。私は占いをテレビや携帯で垂れ流す行為は害悪以外の何者でもないと思っているのですが、どうもそういう考えの人は少数派のようで、「占いで儲けている」とことに罪悪感を感じる方は少ないようです。 実際に「将来は特定のSNSを使わないとする回答が増加傾向だったり、アクセスはするが重要なサイトではないと認識している」というような調査結果をみるにつけ、「楽しいけれどそれ以上でない」という、テレビと同じ状況になっている暇つぶしメディアという実像が浮かんできます。こうした状況を鑑みるに、日本のウェブが生活のインフラになっていないという梅田さんのご指摘は、おおむね当たっていると思います。

もう一つ梅田さんが指摘された「残念な状況」に同意できる点として「サブカルチャーの取り扱い」があります。 ITmediaのインタビュー記事に対する反論として、「日本にはYouTubeの先を行く『ニコニコ動画』があるじゃないか。日本のサブカルチャーは世界トップレベルだ」というものがありました。ですが、私は「サブカルチャーを自慢すること自体が大きな問題」だと思います。サブカルチャーとはあくまで「サブ」。私たちの子孫が歴史を振り返ったときに「文化」として残るもののために、私たちは学び、鍛錬し、才能を用いるのであって、サブカルチャーは自分のなかで「こういう楽しみもある」という類のものという認識が必要だと思うのです。決してそれをもって民度の高さを誇ったり文化レベルの高低を問うべきものではないと思います。これについては、斎藤孝氏の「なぜ日本人は学ばなくなったのか」の主張に同意します。

ですが、以上をもって「日本のウェブは残念」と決めつけるのもまた早計と思います。

米国ではTwitterのせいで、米国IT企業の生産性が低下した」という議論もあるそうです。私も、率直に言ってそう思います。自分でも好きでtweetしていますが、他のツールと比して会社の生産性や情報収集に役立っているとは全く思えません。むしろ、こういうものが好きな人だけがプライベートなムラを作る行為に荷担しているようで、会社に対する帰属意識が希薄な米国ビジネスマン向け「精神安定剤」としての効用の方が大きい様な気がします。素晴らしいウェブが、社会全体でみるとプラスに働いているとは限らないと思うのです。

また、文化の違いも認識する必要があります。米国と日本では、会社に対する帰属意識が全く違う。日本では「就職」というより「就社」と言われますよね。それに対して、米国では転職が当たり前。自分で自分のキャリアや人脈を作らなければならないので、こうしたサポートをしてくれるLinkedInの様なサービスへの需要と期待が日本より高いのは、ある意味当たり前だと思います。そうした文化的背景を無視して、ウェブだけを切り取って「残念」というのは、まるで「日本にはガーデンパーティーが無くて残念」と言っているように聞こえるのです。

私は「日本が世界に自慢できるレベルのウェブはないかもしれないが、それが悪なわけではない」という意味において現状を肯定しています。むしろあらゆる意味において「日本らしい」とさえ思っています。 世の中の人々はこういう状況を持って「ガラパゴス」と称するようですが、米国だけでサービスをしているLinkedInはガラパゴスでしょうか・・?米国でのみ携帯を製造している会社もガラパゴス?元NTTドコモの夏野氏が「日本のレベルが高すぎて、海外の携帯メーカーが撤退せざるを得なかった」といったように、すばらしい進化を遂げている。それを「世界仕様じゃないからだめだ」というのは議論として相当乱暴だと思います。

どうも日本人には(私も含めて、ですが)「海外に進出しなければならない」という強迫観念があるようですね。実際には、facebookほどのサービスでも、日本でそれほど成功しているとはいえない。サイボウズはてななど、名だたるソフトウェアベンダー、サービスも海外では成功を収められていません。 ウェブには結局「言語だけでなく、中身を含めたローカライズが必要」だというのが、ウェブを創っている人々の本音だと思います。そう考えると、「米国初のウェブは、日本ですばらしいローカライズがなされている」というのが私の率直な感想です。

梅田さんははてブのコメントや自分に対する批判に対して「残念」「これがやりたかったことじゃない」と仰っていましたが、識者が匿名で批判の対象となるのは、古くは落首の例でわかる通り今に始まったことではありません。

日本では新聞の社説に署名が無いように、「名前を出して反論する」という文化がありません。もともと議論するような教育を受けていないのだから仕方が無いと思います。つまり、匿名の反論こそ「日本的」だと私は思うのです。

もともと日本は、文字も、倫理も、死生観も中国から輸入して、独自の解釈を加えてすばらしい文化を築き上げてきた国です。ネットだって、「アメリカと同じ」や「アメリカならではのすばらしさ」をそのまま持ってくるのではなく、日本独自に加工してしまえばよい。 日本人にとってのウェブは「輸入して、ローカライズして、消化する」ものであって、その結果原形をとどめていなかったとしても、それをもって「残念」とするのではなく、ローカライズによる「必然」だと私は考えます。 クルマだって元々は日本で作ったものでもないし、今でもフェラーリみたいに「こりゃすごい」というクルマはやっぱり欧米のものが多い。それでも価格や性能、サポートや信頼性といった総合的な観点で世界中の人たちが日本車を買うわけです。単純な比較はできませんが、ウェブもそのモデルを目指すべきだと考えます。

日本のウェブは、「単体では見劣りするが全体でみると結構いい線をいっている」というのが私の思うところで、時間はかかるけれどもちゃんと消化して少しずつ良くしていく。それが日本の得意技だと思っています。

近々、当社で某米国のサービスを日本仕様にローカライズして売り出したいと思っています。

ローカライズの結果、原形をとどめていないかもしれません。

でも気づいたら、日本仕様のサービスとして企業ユーザーに無くてはならないサービスになっている。

そんなポジションを目指して取り組んでいます。

ぜひご期待下さい。