大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

SIサービスのセル生産

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こんにちは、大石です。

過日、東京国際フォーラムで行われた展示会、そして経済産業省中国経済産業局)主催の広島、松江で行われたセミナーと、立て続けに「クラウド時代にSIerの役割がどう変わるのか?」という話をする機会がありましたので、クラウドに特化してきた私たちが現時点で感じている、「これからのSIer像」について私の考えを明らかにしておきたいと思います。

殆どのケースで、まずはこう聞かれます。

クラウド時代にSIerは必要か?」

これは、必要です。断言できます。

どのくらい必要かというと

「どんなに薬が進化しても、医者がいらなくなるわけではない」

ことと同じ、と考えています。

今まで、ITの課題を解決するためには「お医者さん」が必要でした。 個別のケアができる代わりに、コストも時間もかかり、満足度という点で微妙なケースが多かった。

そこに突然、AWSという「新薬」が登場したわけです。非常に安価で、すぐに手に入り、使った分だけ支払えばよい。 ですが、やはり「薬」ですから、「処方箋」は必要なわけです。 もちろん、自分の判断で服用することもできますが、飲み合わせや副作用などの情報があるわけではない。そこは自己責任になります。

私たちのお客様でも、独自にAWSを使っていたが、私たちのアドバイスで「AWSに適した構成」に作り直した結果、サイトのパフォーマンスが上がり、費用が(私たちへの中間マージンを支払っても、なお)下がったという事例が本当にあります。

どんなに良い薬でも、用法を間違えれば副作用もあります。 私たちのような専門家が、AWSという新薬と処方箋をセットで提供するというスタイルができあがりつつあり、これは当面必要とされると考えます。

AWSのサービスは機能の追加・拡張が他を圧倒するスピードで進んでいる反面、複雑さをましつつあり、一般的なユーザー企業が知識やノウハウを網羅的に構築することは難しいレベルに達しています。そのため、私たちのように特定のクラウドサービスを専門で取り扱うチームの出番が増えるものと予想しています。 ※実際、NISTでも「ユーザーはクラウドを"クラウドブローカー"から買うようになるだろう、という見通しを立てている様です(参考リンク

ただし、同じSIでも、やることはだいぶ違います。

下図は、今のSIのモデルです。

旧来のSI

今までのSIは顧客が「のどが渇いた」と訴えたときに、水のあるところまで人を並べて、バケツリレーをする。

顧客に近いSEから順番にドキュメントで指示を出していく。水たまりにいる人は「バケツで水をくめ」という指示に従って、淡々と水をくんでいく。そしてまたバケツリレーで水を渡していく。これが旧来のSIの姿です。

このモデルには、もちろん良い面もあります。 まず分業がやりやすい。 分業がやりやすいため、属人性が排除しやすい。 やる作業が標準化されているから、誰でもできる。 誰でもできるので単価設定もしやすい。 単価が設定できるから、マージンの設定もやりやすい。 マージンが設定できるから、ビジネスとして成立させやすい。

その代わりに、ユーザーからみるとお金と時間がかかる。分業しやすい、属人性が排除しやすいということは、結果的に冗長になるということでもあります。場合によってはドキュメントの方が多くなることすらある。このモデルにおいては、チェーンの独立性を担保し属人性を排除するために、ドキュメントとコミュニケーションが必須になります。 「現状のSI業界の構造では、コミュニケーション能力が求められるのは仕方が無い」ともいえるわけです。どんなSIerでも、採用ページにいくと「コミュニケーション能力」が採用基準のトップにくるのはこのためだと考えます。

それに対して、クラウド時代のSI像はこのようなモデルです。

クラウド時代のSI像

クラウド時代のSIerには、クラウド事業者が提供する、一見何に使うのかよく分からない原子のようなサービスを組み合わせて「水」という分子をつくりあげて、顧客の「のどが渇いた」という要求を瞬間的に満たす、そのようなアプローチが実現できるようになりました。

Amazon Web Servicesが最初に提供をはじめたサービスが何か、ご存じでしょうか? S3? EC2? 残念ですが、どちらもハズレです。

正解は、Amazon SQS。メッセージキューイングのサービスです。 最初SQSが出てきたとき、何に使うのか皆目検討もつきませんでした。 これだけとってみても、どのように役に立つのか想像することは難しい。 ところが、後からEC2やSimpleDBといった、SQSと組み合わせることでアプリケーションを疎結合できる仕組みが、驚くほど簡単に構築できることが分かってきた。それらを組み合わせる「分子式」を知っているかどうかが、SIerにとって「顧客の要求を満たせるかどうか」を決定する重要な因子になってきたわけです。

さらに、調達できるスケールも大きく変わりました。今ではスクリプト1つで1,000台のサーバーを調達することもできますし、耐久性99.999999999%のストレージも、メールもカレンダーもCRMも、ボタン1つで調達できるようになりました。

同じ事をやるための人手が圧倒的に少なくなっているので、ライン生産が向かない。ラインにしてしまうと、ドキュメントやコミュニケーションのオーバーヘッドが大きくなってしまう。セル生産」の様に、優秀なエンジニアが小さいチームを組んで、プロジェクトの最初から最後まで関わった方が、結果的に早くて品質の良いサービスを提供できる。

いささか旧聞に属しますが、私が大学生の時に学んだ約20年前の名著「リエンジニアリング革命」で謳われた「顧客利益を実現するためのプロセス」が、技術革新を経てようやく実現できるようになったのかと思うと、感慨深いものがあります。



このように、小さくて優秀なチームがたくさんあり、それぞれが高い機動力で迅速に課題を解決していく。 チームによってはCloudworksの様なサービスをつくったり、別なチームはプロフェッショナルサービスで顧客の課題を解決していく。 こうした姿をイメージして、少しずつ理想に近づけているところです。

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