大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

2020年11月版 クラウド業界アップデート 「SalesforceがSlackを約3兆円で買収!?」

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こんにちは、大石です。

先月に引き続きまして、忙しいビジネスマン、ビジネスウーマンの皆さまに向けて、先月のクラウド関連ニュースをさくっと10分でキャッチアップできるように、まとめてお届けしたいと思います。様々なニュースから今後の展開を読み解くヒントとして、IT戦略の一助にご活用下さい!

2020年11月のクラウド関連トピック SalesforceがSlackを2兆8,900億円で買収!!〜

11月のビッグニュースはなんといってもこちらでしょう
Cloud Update for Businessでもお伝えしているように、競争という点でSlackはMicrosoft Teamsに負け始めていて、今年9月のSlackの決算発表後には株価が20%下落するなど、単独で成長を続けられるのか市場からも疑問視されはじめていました。そうした中でのこのニュースは、米国IT産業のダイナミズムを象徴する案件として大きく報道されました。

当社も2012年からSalesforceを、2014年からSlackを使い続けている一企業として発表通りに統合されれば最高の環境になると期待しています。正直にいってChatterは使い勝手の点でSlackに見劣りがしていましたが、一方で「商談や顧客などに関連したトピックをまとめて会話できる」という他に替えの効かない機能があります。Slackの買収によってこれらがSlackに統合されれば、顧客管理+社内の情報管理という点で非常に強力なタッグになるものと大いに期待しています。

ユーザーとしては期待大の一方、AWSを事業の中心に据える私たちにとっては手痛い買収になりました。前述の通りMicrosoftはTeamsに加えSharePoint、メール(Exchange)、無敵のOfficeを束ねるMicrosoft 365があり、これらのIDを管理する基盤としてオンプレミスのActive DirectoryからAzure ADに移行する。Azure ADを使うのであればそのままインフラもAzureを使い始める、という明確かつ強力なシナリオがありました。
それに対してAWSには生産性ソリューションが事実上存在せず、上のようなAzureの導入シナリオに対抗する手段を欠いています。これに対抗するためにはネットワーク効果が非常に高いオフィスワーカー向けのソリューションを提供する必要があり、Slackはその中でも市場に残っている最後の砦とも言うべきサービスでした。これを獲得する可能性が失われたことで、AWSには「オフィスワーカーのIDをAWS上に統合する」材料が失われたと私は見ています。
もちろん、それ以外のシナリオでは依然圧倒的にAWSが有利であることに違いはありませんので、この買収によって今すぐAWSの優位が揺らぐという類いの話ではありませんが、Azureにとっては一つ優位なシナリオが強化されたとは言えると思います。

もう一つ、私が注目しているのが「イノベーションの手段としての買収」です。
GAFAイノベーションによって現在の地位を築いたことに異論はないと思いますが、重要なイノベーションのいくつかは買収によって実現されていることはあまり注目されていません。例えばGoogleYouTubeAndroid囲碁で人間を破ったAI(DeepMind)などは全て買収の成果ですし、iPhoneのSiriも買収した企業の名前です。AWSもRedshiftやAWS IoT、QuickSightなどは全て企業買収によって得た技術やサービスをAWSブランドに変えて提供しているものです。
日本企業のイノベーションというと「ベンチャーとの人材交流」とか「R&Dセンターの設立」の様に「どうやって社員に新しいことを考えてもらうのか」という方向に話が行きがちですが、普通に考えて社員が新しいことを発明・発見する可能性よりも、市場でそれが起きる可能性の方が圧倒的に高いわけですから、それらをできる限り早く発見して獲得する方が、イノベーションの成果を早く取り入れるという観点では有用といえます。
今回のSalesforceによるSlackの買収は、「それらがSlackの様に単独で3兆円近い企業であっても起きえることだ」という点で非常に興味深いだけでなく、日本のIT企業が成長を継続するためにM&AやA&Dをどうやって戦略に組み込むのか?という視点でも、非常に示唆に富んでいると考えます。

注目AWSトピックス

  1. re:Invent 2020がオンラインで開催
    11/30より、AWSの年次カンファレンス re:inventがスタートしました。毎年米国ラスベガスで開催されており、日本からも昨年は約1,800名もの方が参加されるIT業界の一大イベントであったため、楽しみにしていた方も多かったのではないでしょうか?残念ながらコロナ禍でオンライン開催になりましたが、セッションの見やすさなどはむしろ向上しており、情報収集という点では以前よりも効率が良くなったようにも思えます。こちらのリンクから登録ができますので、お時間が許す方はご参加をオススメします!
  2. AWSの売上は前年同期比29%増
    Amazonの決算が発表され、2020年第3四半期のAWS売上高が116億ドル、前年同期比29%増であることが発表されました。同時期におけるMicrosoft Azureの成長率が48%と報じられており成長率はAzureが上とみられていますが、そもそもAWSの方が売上高の絶対額が大きいため、成長率だけで比較するのはフェアではなさそうです。また私が確認した限りMicrosoftの決算発表では「Intelligent Cloud」といって、AzureだけでなくWindows ServerやSQL Serverを含めた状態で130億ドルという発表になっておりAWSとのapple to appleの比較は困難です(なぜ報道各社が48%成長と報じているのか、ソースを確認することはできませんでした)。純粋にAzureのみでの表記が待たれるところです。
  3. AWSMacが動く!
    なんとAWS上でMac OSを動かすことができるという驚きのニュースが飛び込んできました。Mac OSiOS向けのアプリ開発にはMac OS+Xcodeの環境が必須のため、iOSアプリの開発をされている方や、FileMakerのようにMac OSでのみサポートされるアプリケーションをお使いの方にとっても新しいオプションが出てきたことになります。
    (注:もちろん、直接ディスプレイをつなぐことはできませんので、Macの画面を使うためにはVNCという別なアプリケーションを用いてネットワーク経由で接続することになります)
    後述しますが、Appleシリコン(Apple製CPU)搭載Macの登場によって、もしかしたらWindows一辺倒の企業PCにも風穴が空くかも知れないという雰囲気が漂っています。そうした中で「企業内PCをMacに移行できるかどうか、事前にAWSでテストできる環境が提供された」という点においても非常に興味深いリリースだと思います。2021年にはM1チップ搭載のBig Sur(Mac OSの最新バージョン)も提供されるとのこと。楽しみに待ちましょう!
    ※正確には12月のニュースなのですが、速報の意味もこめて記載しました

AWS以外のニュース

  • Googleフォトが有料化
    2015年以来人気を博してきたGoogleフォトですが、2021年6月からアップロードされる分については有料化されることになりました。クラウドサービスは便利な反面、値上げのリスクは以前から指摘されていましたが、はからずもそれが現実のものになってしまいました。
    AWSは継続的な値下げをしている一方でGoogleは個人・法人サービス問わず価格戦略が場当たり的に見え(BigQueryやG Suite等)これが、Googleが法人向けクラウドの分野で覇権を握るに至っていない理由の一つになっているものと考えられます。
  • M1チップを搭載したMacが発売
    Appleシリコンと呼ばれる、Apple謹製のCPU(M1)を搭載したMacが発売になりました。これが驚きのパフォーマンスで、Intel CPUを積んだ過去のMacを大幅に超えるパフォーマンスと低消費電力を達成していると話題になっています。
    ここまで圧倒的なパフォーマンス差があると、同じコストを払ってもWindowsよりMacの方が快適でバッテリーの持ちもよく処理できる作業量が多い、という具合に優劣が明確になりそうです。そうなると「社内PCでもWindowsではなくMacを選択する」企業も今後増えるものと思われます。
    当然、その場合使い勝手の問題がでてきますが、新しいMacではiPhone, iPadアプリも一部動作することや、ブラウザ経由で各種クラウドサービスを利用するケースが増えていること。さらに前述の通りAWS上で事前にテストができる環境が整ったことなどを考えると、以前よりもWindowsからMac OSへの乗り換えハードルは下がっているものと思われます。

 

2020年11月のサーバーワークス関連ニュース

  1. 金融機関向けホワイトペーパーを公開
    当社でも琉球銀行様など一部先進的な金融機関でのAWS導入は始まっていましたが、三菱UFJ銀行などメガバンクが本格的にAWSを使い始めたという報道を受けて、金融機関でのAWS利用検討は大きく拡がり始めています。ところがいざAWSを使い始めようとしても、セキュリティに対する社内の説得材料、事業計画の書き方のポイントなど実務面におけるハードルが高く、クラウドの導入は「総論賛成、各論反対」で進まないという事態が散見されておりました。
    当社ではこうした状況を打破すべく、実際にメガバンクでクラウド導入を主導したスペシャルチームが、メガバンクでの経験をベースに社内手続き・説得材料に特化したホワイトペーパーを準備しました。これにより、より社内での合意形成が円滑に進むことになると期待しています。
  2. re:Invent 2020向け特設サイトを公開
    今年のAWSの年次カンファレンスre:Inventはオンラインでの開催となりましたが、当社でもこちらで発表されたニュースや付帯する情報など、当社が発信する情報を集めたサイトを公開いたしました。
  3. サーバーワークス、クラウド導入を支援するGoToクラウドキャンペーンを開始
    これからAWSを使い始める方や新しくAWSアカウントを開設する方向けにAWS利用料が30%引きになるGoToクラウドキャンペーンをスタートしました。国のGoToは見直しが始まっていますが、当社のGoToキャンペーンは継続しますので安心して(?)ご相談下さい!

まとめ

  • イノベーション ≒ 戦略的M&A
    SalesforceによるSlackの買収は、イノベーションを起こす手法としてのM&Aに注目すべき好例と言えそうです
  • Appleシリコンに注目
    Intel製CPUよりもARMベースのCPUに分がありそうだとお伝えしてきましたが、いよいよデスクトップの分野でも優勝劣敗が明らかになり、企業PCにもMac OSを検討すべき時期が到来
  • re:Inventに注目
    AWSの年次カンファレンスre:Inventで今年も注目のサービスが続々と発表されています。続報をお待ちください

コロナ禍は第三波が心配されていますが、クラウドを活用することで、こうした状況でもビジネスを継続し、成長できる環境を作ることはできると思います。この情報がそのための一助になれば幸いです!