こんにちは、大石です。
エンタープライズIT業界には私が勝手に三銃士と呼んでいる人たちがいて、
ソラコムの玉川さん、HENNGEの小椋さん、クレディセゾンの小野さんという40代3人の経営者を「これから日本のエンタープライズIT業界を変えていく3人」として、いろんなところで紹介させて頂いているのですが、そんな小野さんが「本を書いた」とのことだったので早速読んでみました。
結論を先に言うと、
「IT業界の人はとりあえず全員読んどけ」
です。
こういう情報過多の時代ですから「DX」だの「シリコンバレーの流儀」だの「2ピザルール」だのを断片的に見聞きすることは多いと思うのですが、「それがどういう理由で大切なのか」「それを自分たちのチームで実践するためにはどういう方法をとるとよいのか」ということを知る機会はそれほど多くありません。本書ではこうしたTipsの背景まで丁寧に、体系的に教えてくれます。
周りを見渡してみても「シリコンバレー、日本のベンチャー、日本の大企業」でそれぞれ仕事をしてちゃんと結果を出している人って数えるほどしかいないと思うんですよね。そんな奇特なキャリアをお持ちだからこそこういう本が書け、そして受け手にとっても納得感を持って腹落ちして読めるんじゃないかと思います。
私が代表をしているサーバーワークスという会社でも、大切にしている価値観やオペレーションがあるのですが、本書にもそうしたやり方や考え方に対して思想的な裏付けがなされており、「既にやっていること」に対する見方が深まった点も強調しておきたいと思います。
- 「顧客視点」(P.24)
- 私たちが「行動指針」と呼んで大切にしている価値観の中に「顧客視点」というものがあるのですが、これが意外と難しいんです。みんな顧客視点で考えよう、行動しようとは思っていても、いざ製品開発やプロジェクトの現場で「その価値観を具体的な行動にする」際に本書でいう「谷を埋める」アプローチになりがちです。そういうワナの存在や「真に顧客視点なアプローチ」について再考する良いきっかけになります
- 障害から改善のやり方(P.145)
- 私たちは過去20年にわたってITインフラの運用をやってきているので、障害を改善する仕組みを大切にしているのですが、改善のアプローチを考える際に必ず「その仕事そのものを辞められないか?」ということを最優先に考えるようにしています。歴史があったり改善を重視する組織ほどムダな仕事が増える傾向にあると思いますが、そうした組織にも「To Stop」リストの考え方は非常に有益だと思います
- 「称え合う文化」(P.214)
- これは本当に大切ですね。私たちもをお互いに称え合い、感謝を伝えるピアボーナスの仕組みを導入していますが、これは本当によかったと思います
その他にもエンジニアのピープルマネジメント、チームマネジメント、組織マネジメントについて具体的なアプローチと共に詳解されているだけでなく、個人のキャリアマネジメントについても非常に実践的なアドバイスが示されており、ITに携わる人であればどんな方が読んでもためになる、将来の指針になる何某か得られるのではないかと思います(早速私も課長、部長陣に読んでおくようにお願いし始めたところです)。
そんな本書ですが、気持ちよく読み終わるためにほんのちょっとだけ注意すべき点もありますので、 最後にその注意点を述べて書評の締めとさせていただきます。
注意点
- この本を一読すれば分かるように、小野さんは本物のハッカーです。ハッキングを広義に「最小の労力でシステムへのアクセスを獲得し、得られる便益を最大化すること」と捕らえるなら、この本は「みんなに優しくIT業界で生き抜く方法を体系的に教えるよ〜」という羊の顔をしつつ、あなたの心をハッキングしバックドアを仕掛けられ、ブログやツイッターをフォローしたりクレジットカードをセゾンに切り替えたりして、二度と小野教から抜けられなくなる可能性を秘めています。いや、もしかしたらこの本の存在は、我々小野フォロワーやIT業界に対して仕掛けられた壮大なソーシャルハッキング行為なのかもしれません・・・
- この本はIT業界で生き抜くための知恵と、知恵の背後にある考え方を体系的に伝えてくれるまぎれもない良著で相当数売れることになると思いますが、これらの印税はもれなく小野さんのワイン代になります。例え印税がムサンヌになっても、「小野さんが美味しいワインを買ってまた本書の様な良著を書いてくれればいいや」というパトロンヌ的な、海のように広い心が不可欠です
※ムサンヌとパトロンヌについてはこちら - 後書きが反則的にズルいです・・。あれ?目から汗が・・・