大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

作らないSIerの代表がDevLOVE代表と対談した話

記事タイトルとURLをコピーする

こんにちは、大石です。

私たちサーバーワークスは「作らないSIerと称して、アプリケーション開発をできるだけ避けつつもお客様の要望は出来るだけ満たす、という新しいチャレンジを行っている会社ですが、そんな会社の代表である私が、DevLOVEという全国3,000名を擁するディベロッパーコミュニティの主催者であり、「正しいものを正しくつくる」というコンセプトでギルドワークスという会社を立ち上げた市谷さんと対談するという機会がありました。

ソフトウェアを「正しく作る」vs「作らない」どっちが正解?
サーバーワークス大石氏、ギルドワークス市谷氏対談

http://codezine.jp/article/detail/7914
 

対談の内容は記事をご覧頂くとして、最初にこのお話を頂いたときはもっと宗教論争みたいになることを期待していたのですが、実際にはかなり似た未来をイメージしていて、「作るSIと作らないSIでは、考えていることはかなり近い」ということが改めてわかりました。共通して持っていたのは 「みんな作りすぎ」 という問題意識です。

組み合わせで競争優位を実現した例


たとえば、建機のコマツさんが提供されている「KOMTRAX」というシステム。
建機にGPS/センサー/通信モジュールがついていて、それをセンターで管理し、建機の盗難を防ぎつつも、アイドリング時間が長ければコマツさんから指摘して燃費を向上させたり、パーツが壊れる前に補修するなど建機のユーザーに優れたサービスを提供しているIT基盤としてよく知られています。

これは非常に示唆に富んだ例だと思います。

コマツさんは、素晴らしいコードを書いたから競争優位を確立したわけではありません。むしろシステムとしてはGPSや通信端末など、一般的なモジュールをつなぎ合わせただけにもみえます。ですが、組み合わせの妙と、それをいち早く導入し早く顧客からのフィードバックを得るというサイクルをどこよりも早く実現できたことによって、圧倒的な強みを獲得したわけです。
この例が示すように「優れたシステムというのは、単なるサーバーとコードの塊ではなく、顧客、自社、パートナーといったステークホルダーが、ネットワークを介してどうやって利益を実現するのか、そのグランドデザインのことである」と言えるのだと思います。

そして、そのグランドデザインを実現するために、既に世の中に存在する優れたものがあれば使えば良いし、どうしても実装しなくてはいけない積極的な理由があれば作れば良い、という話だと思うのです。

作ったことによる失敗


実は私たちも過去、「実装すべきかどうかの判断を間違える」失敗を犯しています。
2010年頃、まだAWSの認知度が高くなかった頃、今と違って私たちは「プッシュ営業」を行っていました。そしてプッシュ営業を効率的に実施するためのプッシュ営業システムを自作したのです。

最初はうまくいったようにみえました。

ところが、AWS知名度が高まりプッシュで獲得するアポイントよりもお問い合わせ頂くケースが増えるようになってしまうと、プッシュ型のシステムでは対応できなくなってしまったのです。
このように、「開発した時点では最適」なシステムを作っても、外部環境があっという間に変化することで瞬間的にシステムが陳腐化してしまうということを身をもって体験したのです。
私たちは、こうした経験を経て「営業管理システムの様に、それ自体が直接企業の競争力に関係するものでないものは、既にあるものを積極的に使う」という方針に転じ、Salesforceを使うことにしたのです。

「作るvs作らない」ではなく、「何を作り、何を作らないか」


企業の競争上、どうしても作らなければいけないものは作る。これは変わりません。
私たちですとCloud Automatorの様な「当社にしかない、当社でないとできないサービス」は作ります。
これは競争力の源泉であり、差別化のポイントであり、私たちのビジョンそのものだからです。

ですが、それ以外に私たちが作らなければいけないシステムがあるかというと、これは棚卸しした結果「0」でした。
作らなくても、大半のシステム要求は「AWSパッケージソフトの組み合わせ」や「既存のクラウドサービスの組み合わせ」で実現できるし、場合によっては「組み合わせることの方が、早くマーケットに投入できるため競争優位を獲得しやすい」という逆転現象も起き始めています。

事実、米国の研究でも「持続的な競争優位というものは、実は短い優位を鎖のように連続させることで実現されている」ということがわかっています。であれば、今までの様に大きなシステムをドカンと作って10年20年と使うよりも、最初から「このシステムの寿命は1年2年。クラウドをつなぎ合わせてすぐにマーケットに投入する。その後は状況を見て柔軟に変更できるようにしておこう」というアプローチの方が、TTM (Time-to-Market)を短縮し、持続的な競争優位を獲得するという観点でも適していると考えます。

できるだけコードを書かない。コードを書かない方が、バグが発生する確率も減る。品質もあがる。マーケットへの投入も早くなる。変更にも強くなる。競争優位を築きやすくなる。
これこそが、「作らないSI」が生み出す未来のITの姿です。

逆説的ですが、組み合わせだけでどうしても実現できなかったり、作ること自体が競争優位になるものは徹底的に作る。どこよりも上手に、良いモノを作る。そのメリハリと目利きが、これからのシステムを考える上で非常に大切になってくる。
これが、冒頭の市谷さんとの対談で「目指している未来の姿が非常に似ていた」という話に繋がるわけです。

このエントリを通じて、「作らないSI」の目指している姿が少しでもみなさんに伝われば幸いです。


p.s. 「何でもかんでも作っていたSI」から「作らないSI」が主流になると思われる中、「作らないSI時代のエンジニアのキャリアがどう変わっていくのか」について、技術評論社さんのSoftware Designで「サーバーワークスの瑞雲吉兆仕事術」という連載を担当していますので、ご興味のある方はぜひこちらもご覧下さい。