こんにちは、大石です。
先日、日経BP社のサイトITProに
「クラウド化の流れが止まる」
という記事がでていたのですが、この記事が出てきてからというもの、ある人は沈黙、ある人は怒号を浴びせ、クラウドに否定的だった人々が鬼の首を取った様子がSNSで拡散されるなどまさにクラウド界に阿鼻叫喚を引き起こす久しぶりの爆弾投下という感が満載でしたが、「クラウド推進派」の一味として意見表明する必要があると感じましたので私見を述べたいと思います。
※前提として、私はITProの記事しか読んでいません。この記事から読みとれることについてのみ意見表明します(事実と異なる可能性がありますのでご了承下さい)
主張:「2014年までに、SaaSを利用する企業の30%がサービスレベルの低さを理由にオンプレミスに転換する」
「サービスレベル」が何を指しているのかいくつか意見があるようですが、文脈から考えて「可用性=使いたいときに使えるかどうか」と判断しました。
実は私たちも、「SaaSの可用性」が今後大きな問題になることは認識しています。
(実は今朝も、その話題で議論したばかりです)
こちらのブログやスライドでもご説明しているとおり、当社は基本的に全てのシステムをクラウド化しており、依存度は一般企業と比べても極めて高い状況です。ですが、私たちは「ある日突然、全部をクラウドに移行」したワケではありません。
実際、2008〜2011年頃は、AWSを活用することで一般的なSaaS利用よりも高いサービスレベルを維持できると考えており、積極的なSaaS利用よりは、AWS上にアプリケーションを配置するというアプローチをとっておりました。
しかし、サービスが増えるにつれメンテナンスの負荷が増加したことや、他社SaaSのサービスレベルが情報として多数得られるようになり、自社で維持するより、サービスレベルもサービスそのものの価値も高いと判断できる材料が整ったことから、2012年には全ての社内システムをクラウド化した、という流れでクラウド化を進めてきました。
ここで注意して頂きたいのは、当社は「クラウドありき」で進めてきたわけではない、ということです。メール、カレンダー、営業支援など各アプリケーションのそれぞれについて、自社で運用する場合とクラウドを利用する場合とで、経済性、運用負荷、サービスがもたらす価値、自社と比較した場合のセキュリティレベルを維持する能力などの要素について一つ一つ検討を重ねた結果、結局全てクラウドの方に軍配が上がってしまったというのが実状なのです。
ガートナーが主張する「低いサービスレベルを原因とするオンプレミスへの回帰」が起こるには、「オンプレミスで提供するサービスの方が、クラウド(ここではSaaS)で提供するサービスよりもサービス可用性が高い」ことが合理的に示される必要があると考えますが、サービスレベルをSaaS事業者よりも上げ、かつデータ爆発や標的型攻撃といった「今までは発生していなかった事象にも迅速に対応できる能力」をユーザー企業側で持ち続けることはかなり難しいものと推測されます。
メールひとつとってみても、Google Appsが年に数回のダウンを起こしたからという理由で、自前でデータセンターを借りてメールサーバーをたててストレージを買ってアンチウイルスとスパム対策をやってバックアップとアーカイブをやってさらにディザスタリカバリをやって(以下略)という環境に逆戻りすることが合理的な選択であるとはいえないと考えます。
SaaSのサービス停止問題は、サービス断が起きても業務が継続できるような取り組みのベストプラクティスやサービスの登場によって、容易に解決できる問題だと考えます(HTML5によるオフライン化も同じ文脈で語って良いと思います)。
よくオンプレミスからクラウドへの潮流は
「自家発電から送電システムへの変化」
にたとえられますが、
「サービスレベルの低さが理由でオンプレミスに戻る」
というのは、
「停電が頻発するという理由で送電システムから自家発電に戻る」
といっていることと同じです。
でも、実際に現代の企業がやっていることは「自家発電に戻る」のではなく「無停電装置(UPS)などを組み合わせて、送電システムのもつ欠陥の一部を穴埋めする」というアプローチです。
SaaSも同じだと考えます。
たとえば、私たちの業務ではSalesforceが1日止まってしまう程度のサービス断は許されるので、一般的なデータのエクスポートを1日1回やるだけでOKとしていますし、止まった際に業務上重要な情報にアクセスできなくなるサービスについては、閲覧だけでもできるようにということで情報を自動でクローリングさせて、閲覧専用の別サーバーに同期しておくという対策を講じたりしています(正確には対策中)。また、ファイルサーバーはBoxを使っているので、ホットデータのキャッシュはローカルにも保存されていることで、多少のサービス停止にも業務上の支障は無いような仕組みになっています。
上で挙げた例はほんの一例ですが、どれも「サービスが停止したら困るという理由で、クラウドがもたらす迅速性、オフバランス、オンデマンドといったメリットを全てかなぐり捨ててオンプレミスに戻る」などという類のものではありません。
クラウドを利用する上で、「サービス停止に備える対抗策」の様な知識が業界全体で不足していることは同意しますが、それは私たちの様なベンダーであったり、クラウドのユーザーから対策の知識が発信され共有されることで、比較的容易に解決可能なものが多いと考えられます。
私たちは主に中堅〜大企業にAWSの導入支援サービスを提供させて頂くことが多いのですが、大きなお客様ほどサービス停止やサービス障害(データ逸失など)発生時のインパクトが大きくなるため、慎重にご判断されることは理解しています。
そして、より安心してクラウドを利用して頂けるよう、AWS利用時のベストプラクティスを情報として発信することはもちろん、保険的意味合いを含んだサービスも合わせて提供することで、こうした課題に応えていきたいと考えています。
最後に一言。
市場の流れを決めるのはアナリストではありません。
お客様です。