大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

新しくマネージャーになる皆さんへ

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当社は3月から新しい期に入りますが、来期に向けた新しい組織やマネージャーも決まり、何人か新任のマネージャーも誕生することになりました。

以下はあくまで社内向けのメッセージですが「サーバーワークスではこんな考えでマネージャーを任命しているんだ」ということを知っていただく意味でも、こちらでシェアしたいと思います。

マネージャーのみなさんへ

新しくマネージャーに就任された皆さん、おめでとうございます!みなさんは、今素晴らしいチャンスを手にしています。

マネージャーのチャンス

  • 知ることができる範囲が広がる 私たちは「原則オープン」の会社なので、マネージャーしかしらない情報というのはあまり無いのですが、それでも「マネージャーだから集まる情報」というものは一定程度あると思います(例えば評価の情報)。社内での情報差は少なくとも、社外の方は「マネージャーに伝える」「マネージャーだから伝える」という行動を取るでしょうから、必然的に得られる情報の範囲が広がります。多くの情報が得られるということは、多くの選択肢を得られるという意味で良い機会だと思います。
  • 自分の能力を開発できるチャンスが増える 当然ですが、「やれること」を続けても能力は伸びません。能力開発・成長とは「できるようになる範囲が拡がる」ことを言います。自分のやれていないこと、やってこなかったことにチャレンジして、できるようになって、はじめて成長したと言えるわけです。マネージャーという新しい仕事は「自分がやってこなかったこと」に対するチャレンジという意味において、成長の機会といえます。
  • キャリアの幅が広がる 良いか悪いかはこの際おいておいて、課長は課長として、部長は部長として転職する機会がほとんどです。一人として「転職してほしい人」などはいませんが、(逆説的ですが)「サーバーワークスでしか生き残れない人」はマネージャーとして適任とは言えないと思います。能力をポータブルにすることはとても大切で、「いつでも転職できるけど、それでもサーバーワークスでマネージャーとして活躍する道を選んでいる」という状態であってほしいと強く願っていますし、「自分はいつでも転職して別なキャリアを形成することもできる」という状態を保つことは、精神衛生上も好ましいことだと思います。その意味で、マネージャーになるということは「キャリアの選択肢が拡がる」といえます。
  • 給与があがる(かもしれない)
    上役が下より高い給料をもらうのは、優秀だからではない。上役の方が責任が重いからだ。その責任の中には、必要なときに手を貸すこと、手に負えない事態から救うこと、守ることが含まれている。 ---カーリー・フィオリーナ
    当社の場合、役職とグレードを分離しているので、「マネージャーになったからといって給与があがるとは限らない」制度になっていますが、マネージャーに任じられるということは少なくとも期待はされているわけですから、給与があがる可能性が高いということはいえます。

私の知る限り、マネージャーに昇進することによるデメリットはほとんどありません。一部の会社では管理職になって残業代がつかなくなる、などということがあるようですが、当社の制度がそのようになっていないことはみなさんご存じの通りですし、そもそもマネージャーが残業代で稼ごうと思うような会社に未来があるとは思えません。ほとんどの場合「知らないから恐れている」だけだと考えられます。そこで、「知らない恐怖」を少しでも払拭するべく、以下に10のガイドを記したいと思います。

マネージャーへの旅を楽しむガイド

(1) 期待が変わったことを理解すること

みなさんはこれから「メンバー」から「マネージャー」というロールに変わります。ロールが変わるということは、期待も変わる、ということになります。 殆どのケースで、マネージャーは実務能力が高いからマネージャーに選ばれているのだと思います。実は これが大きなワナ です。今までは個人での実務を期待されていたのに、これからは突然「チームでのパフォーマンス」を期待されるのです。この変化に気づくことはとても重要です。マネージャーに任命された方は「チームメンバーのみんながあなたの様に成果をあげられるようになってほしい」「チームとして成果をあげてほしい」ということを期待されているのであって、「今まで通りにやってほしい」ことを期待しているわけではありません。まずこのことを再認識しましょう。

(2) 高い目標を設定すること

特に新任のマネージャーにありがちですが、感覚がわからないために「できること」に絞って小さな目標を設定してしまうケースが散見されます。が、これはあまり良いようには思えません。マネージャーへの期待という点では、「高めの目標にチャレンジし、結果として未達だったとしても、マネージャーも、チームメンバーも、会社もみんな成長することができた」という姿が理想的な姿です。「目標を達成したかどうか」よりも「全体として成長できたか」の方がより大切です。10%成長の目標を110%で達成したマネージャーよりも、30%成長の目標を95%で未達だったマネージャーの方が私は「優秀」だと考えます。 例えば野球で「出塁率」の様な小さな目標を立ててしまうと、ツーアウト2・3塁でフォアボールを選んで喜ぶようなことがおきてしまいますが、それよりもスリーベースを打ってさらにランニングホームランを目指したが、結果ホームでアウトになってしまった。でもチャレンジして2点とった、というぐらいの人の方が、チーム全体のパフォーマンスという点では期待には沿っていると思います。

(3) 会社のリソースは借り物であることを忘れないこと

特に新任のマネージャーは、メンバーをとても大切にする傾向があります。これ自体は良いことなのですが、意図せず「チームを不必要に護ってしまったり、さらに外界と隔絶されたガラパゴスを作ってしまう」ことが起こります。その結果、マネージャー自身の評価が下がってしまったり、メンバーが異動しにくい・他のチームと交流しにくい状況が生まれてしまっては「メンバーのためを思って」した行動が裏目になってしまいます。 メンバーや予算といったリソースは所有物ではなく、あくまで「借り物」です。会社の都合で期中で増減しなければいけないことも起こりえます。そうした場合に「取られた」とか「押し付けられた」などという感情が湧き上がったら要注意です。そうした感情は「チームは自分のもの」「自分のリソースは自分のもの」という思い込みがあるから湧き上がっているのだと考えられます。 リソースは「借り物」であることを忘れず、いつどんな場合でも、手持ちのリソースでベストを尽くすことに常に意識を集中しましょう。

(4) 他のマネージャーを大切にすること

マネージャーになって視座が高くなると余計に感じるものと思いますが、基本的に仕事で「自分のチームだけで完結する」というものはほとんどありません。仕事というものは、本質的にマーケ、営業、技術、総務、経理、人事、役員、いろいろなチームの人たちが連携して動いて、初めてうまくいくものです。しかも他の部署のマネージャも、たくさんの業務やいろいろなミッションを持っており、同じような悩みや苦労を抱えています。こうした「同じ目標に向かいつつも、同じ悩みをもつ同志」を大切にして、仕事の連携を良くすることで、結果として全体のパフォーマンスがあがるわけです。 特に新任のマネージャーは、どうしても「自分のチームのパフォーマンス」を気にしてしまいますが、会社全体で見るとパフォーマンスというものは「チームとチームの間のパイプの太さ」によって既定される場合がほとんどです(ボトルネック)。

下の図はこの考えを示したモデルです。 f:id:swx-ceoblog:20200803145603p:plain (1)でチームのパフォーマンスを倍にするよりも(それはとても大変なことですが!) (2)の様にチーム間の連携をスムーズにする方が、会社全体のスループットは上がるということを示しています。

こうした「チーム間のパイプを太くする動きをすることで、全体のスループットがあがる」という認識があると、他のマネージャーを大切にすることの意味も理解できると思います。その認識と行動が、あなた自身によりよい結果をもたらすはずです。

(5) メンバーの能力を引き出すこと

先の「借り物」のところでも言ったとおり、メンバーはあなたの所有物ではありません。ですが、能力と成果を引き出すことについては、マネージャーにその役割が期待されています。「部下を思い通りにコントロールする」という発想を捨てて、メンバーにどのような能力があって、その能力をどのように引き出すとチームのパフォーマンス(成果)につながるのか、メンバーの成長が促されるのかを常に意識しましょう。

(6) 会社の意向を咀嚼して、実行に移すこと

マネージャーになると、会社からの要求が一段抽象的になります。例えば会社のトップが「火の用心」というビジョンを示した時に、マネージャーがメンバーに同じように「おい、火の用心しろよ」というだけでは、なんの実効性もありませんし、マネージャーが居る必要性もありません。 会社が「火の用心」と言っている場合、他の部署と連携して、誰かが水槽を用意すれば、自分の部署はポンプを用意する。別な部署が火災報知器を用意したら、他の部署は消防車を用意する。そしてそれが常に稼働するような計画を立て、実際に実行する、といった具合に、抽象的な目標やビジョンを、具体的な行動に咀嚼(翻訳)して計画と行動に落とし込む必要があります。これを今までと同じように「やるべきことが降ってくるもの」と思っていては、1の「会社の期待が変わったこと」に対応できませんし、5の「メンバーの能力を引き出す」こともできません。 こうした「会社のビジョンを仕事のアクションアイテムに翻訳する」こともマネージャーの大切な役割の一つだと認識しておくと、自分への期待、やるべきことも一層はっきりするものと思います。

(7) 新聞を読むこと

マネージャーになると高い視座が求められます。そしてそのような視点を持っていると、会社の方向性、ミッション、お客様の意思決定など、実に様々なものが「流れ」の中で決定されることがわかってくると思います。こうした「社会の流れ」を掴んで置くことは、マネージャーが様々な意思決定をする上でとても大切です。なぜ今「はたらき方改革」なのか。なぜ今AIが注目を浴びているのか。クラウドは社会からどのように認識されているのか。1社1社歩いて聞いてきても同じ情報が得られるかもしれませんが、マネージャーにそんな時間的な猶予はありません。新聞の様な、より効率的かつより公平なメディアから情報を得ることが、高い視座を持つ上で有効に機能すると思います。 (ちなみにtwitterfacebookなどは「流れ」を見るためには不適なメディアです。こうしたSNSは基本的に同じクラスターの人が集まりますので、自分のクラスターに不都合な事実は隠蔽されてしまったり、過小評価されてしまいます。流れを見るためには情報の偏りを避けることが大切で、そのためにあえて「新聞」と言っています)

(8) 判断の評価軸を明確にすること

マネージャーになると(それまでよりも)いろいろな決定に関わる機会が増えることになります。その時、メンバーに「あのマネージャーは、こういうときは○○と判断するはずだ」と認識されているか、それとも「聞いてみないとわからない」と認識されているのかは大きな違いがあります。 判断の軸がまちまちであったり、気分によって回答が違ったりすると、メンバーは気分が回復するまで相談を躊躇したり、都合の悪い情報を隠蔽したりするようになるかもしれません。これでは正しい情報が集まらず、チーム全体の意思決定のスピードも遅くなってしまいます。 幸いサーバーワークスでは「行動指針」という形で意思決定の大指針が提示されていますが、それでも行動指針は大きな枠組みであり、細かい判断はまだまだマネージャーに委ねられているのが実状です。そうなると、「自分のチームでは、こういう軸で判断する」という評価軸を明確にし、それを自分の気分や思いつきで変更しない運用をすることが、メンバーが精神的に安心して相談できる環境の醸成につながります。

(9) 自分の成果を見える化すること

今までメンバーだったときは、自分が「課長に見てもらう」立場でした。今度からはメンバーを「見る立場」に変わるわけですが、ここで「そうはいっても、会社全体から見られる立場になった」ことを忘れてはいけません。自分の役割や仕事に誇りや自信を感じていればなおのこと、「自分はこのような成果を成し遂げた」ということは誰からも明らかにするべく、見える化しなければいけません。 4の「他の課長を大切にする」でも述べた通り、会社全体のスループットという観点では、実は「チームそのもののパフォーマンス」よりも「チームとチームの間の連携」の方がパフォーマンスに与える影響は大きいのです。ところが一般的に評価というのものはチームのパフォーマンスに焦点が当たっていますから、自分たちの行動の結果、連携がどのようによくなって、どの程度会社全体のスループット向上に貢献したのかは、マネージャーが率先して公開しないとわからないものなのです。 サーバーワークスであればQuestetra BPMを使ってチーム間のワークフローを自動化していますが、例えば「ワークフローを作ることで、業務が省力化された」とか「ワークフローの改善でデリバリーまでのスピードが短縮化された」といった事実は、マネージャーが意識的に見える化することで初めて認識されます。これは、会社全体のためにも、メンバーのためにも、そして何より自分の評価のためにも大切なことです。

(10) マネージャーという役割を楽しむこと

仕事の肩書きというものは、あくまで会社運営が楽になるように考えられた「役割」です。「ロミオとジュリエット」に2人も3人もロミオが居ては劇は成り立ちません。誰かがロミオに、だれかがジュリエットを演じて、他の誰かがエスカラスやロレンスを演じることで初めて劇として成立するわけです。 同じように、役割というものも「会社」という舞台を成功させるために、あなたに割り振られた「役割」です。上の1〜9を参考にして見事演じきることで、更に大きな役割を与えられたり、場合によっては主人公に抜擢されることもあるわけです。 せっかくみんなで一緒の舞台に立っているわけですから、この劇が見事成功するように、自分の持ち場を演じきって、より大きな喝采をあびましょう!

 

マネージャー(課長、部長)への昇進、おめでとうございます!一緒に新しいロールを楽しんでいきましょう!