大石蔵人之助の雲をつかむような話

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長 大石良

震災とパブリッククラウド

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こんにちは、大石です。

既報の通り、東北関東大震災によって、想像を絶する未曾有の被害が発生しております。震災でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。 私自身が大学4年間を仙台で過ごしたこともあり、震災による被害の実態を見るにつけ、自分が過ごした美しい土地が壊滅している有様に心を痛める日々が続いておりました。そして、そのことが「少しでもお役に立ちたい」という私自身の個人的な動機にもなっています。 震災から3週間という時間が経ち心の整理もできつつありますので、ここで、私たちが復興支援で行った活動と、震災から導かれた今後のビジョンについてまとめておきたいと思います。

ボランティア活動

震災や原発事故の影響で、いくつかのサイトにアクセスが集中しサイトが閲覧できない状況になっていました。こうしたサイトは、被災者の方や被災者を支援したい方にとって極めて貴重な情報源で、これらの復旧こそ「クラウドに特化したIT企業でなければできない支援」と確信しました。 当社はこうしたサイトのオーナーに対して、ボランティアでクラウドへの移行支援を実施し、計3サイトの移設を行いました。 なお、この活動にはAmazon Web Service(AWS)の日本法人であるアマゾン データサービス ジャパン株式会社様、およびAWSのユーザー会であるJAWS-UGの皆さまのご支援があったことを併せてお伝えいたします。

パブリッククラウドへの期待

非常に残念ではありますが、震災によってクラウドコンピューティングというコンセプトの有用性が実証されてしまいました。 みずほ銀行のシステムトラブルの原因となった「震災→義援金の振込集中→トラブルの拡大」というサイクルが示す様に、システムの負荷が、いつどのような形で集中し輻輳を引き起こしてしまうのか、事前に予測することは極めて困難です。 また、福島第一原発の事故から、「二重三重の対策を講じていても、物理的な場所が一緒にやられてしまえば全て機能しない」という、従来型の可用性向上策の限界も露呈してしまいました。 こうした問題への対処としては、全世界にデータセンターを分散配置し必要に応じて時間単位で調達していくクラウドコンピューティングが有効な解決策であることに、今のところ異論の余地は見当たりません。

震災で明らかになった非クラウド型システムの課題

  • システムの負荷は、本質的に予測不可能である
  • 物理的なサイト(含データセンター)が一度に破壊されることは、我々が考えているよりも高い確率で起こり得る
  • 電力の供給停止が、事業活動に致命的な結果をもたらす可能性がある。データセンターは「自家発電設備」による継続的な電源供給をうたっているが、それは石油の継続的な供給が前提。そして、災害時には石油の供給が滞ることが明らかになった

私たちの予測

以下の理由により、パブリッククラウドの利用が加速すると考えます。

  • プライベートクラウドでは、震災の様な事象に対応することができない」ことが明らかになったため、クラウドの利用に積極的でなかったエンタープライズクラスの顧客がパブリッククラウドの利用を本気で考える。そして移行は、今夏に計画停電が本格化する前に、極めてスピーディーに行われる
  • 不確実性の拡散に対応するため、企業が「所有から利用への転換」を加速させる。特に経済の先行き不透明感が広がる中で、「5年間のTCOでは、(クラウドよりも)オンプレミスの方が有利」といった議論ができなくなる。資産を購入し、長期にわたり減価償却するというリスクが許容できなくなる。
  • 節電と計画停電への対応を余儀なくされる。計画停電対策として、パブリッククラウドへの移行が検討される。また、企業ができる節電への協力姿勢として、国内のデータセンターではなく、海外のパブリッククラウドを使い、電力需給が落ち着いてから国内に戻す、というシナリオが現実のものとして認識される。

この予測の確からしさは、私たちが提供しているAWSの運用管理サービス「Cloudworks」の顧客数が、震災後3週間で25%伸びているという事実によって裏付けられていると考えています。

ポスト3.11のビジョン

  • 「節電・停電対策としてのパブリッククラウド」の積極的な推進 近年私たちは、未来の不確実性を低く見積もりすぎてきました。その反省として、上述の通りパブリッククラウドを使って予測不能な未来に備えるという姿勢こそ「歴史に学ぶ」ことであると考えます。そして、自社事業の保護は当然のこと、「逼迫する電力受給に対する具体的な社会貢献」としてパブリッククラウドの利用が有効であることを積極的に広め、経済の復興と社会貢献の両立をめざします。
  • 納税による復興貢献 震災の復興にかかるコストは、20兆円とも30兆円ともいわれています。こうしたコストを国債の発行だけで賄うわけにはいきません。復興の問題は、私たちの問題です。私たちが経済活動を通じて利益をあげ、納税していくことでしか復興は実現できません。私たちは、企業の責務として、利益の増大に向け最大限努力し、寄付と納税によって復興に貢献します。
  • 採用の継続 震災を受けて、相当数の企業が2012年の新卒採用を縮小したり、見送ったりしていると報道されています。しかし、先に述べたように、雇用創出と納税を続けなければ、復興への道は閉ざされてしまいます。当社は、予定通り2012年入社の新卒採用活動を続け、企業の責務としての雇用創出にコミットします。

震災がもたらす困難は、私たちの想像の遙か上をいっています。 しかし、「疾風に勁草を知る」という言葉があるように、厳しい環境であるからこそ、本当に強い企業、世の中に必要とされる事業を営む企業だけが生き残れると確信しています。そして私たちは、そのような企業で在り続けようと心から願っています。

目の前の惨状を憂い怯えるだけでなく、自分たちのできることを考え、実行する。 復興にはそれしか道はないと肝に銘じ、これまで以上に努力して参ります。